コンサルタント弁護士・籔本恭明(やぶもとやすあき)
経営の視点
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事業承継(その36)支配の正統性
事業承継(その36)支配の正統性
作成:2016年5月21日(土)
事業承継(その36)支配の正統性
 正統性とは
 正統性とは、正当であり、合法であり、適格であることです。
マックス・ウェーバーは、「正統性」概念について、自然状態であれば力の支配である権力を、力の支配がなくとも、なぜ被統治者が正しいと認めて従うのか。統治される側から、なぜ統治する者を正統と認めるかを考えるところに意義があると考えます。

資本多数決主義
競争社会であるビジネスにおいては、意思決定は株主総会の過半数をとれるか(会社法309条1項)、取締役会で過半数をとれるか(会社法369条1項)が重要な問題となります。即ち、議決権の過半数を握れば会社を事実上支配できる仕組みになっています。
かつて、ソニーのハワード・ストリンガー氏は、ソニーの出資負担を減らすため、アメリカの映画会社メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)買収に関して、投資会社を巻き込んで見事買収に成功しました。しかし、投資会社の出資比率がソニーのそれより上回ったため、2006年、MGMは、ソニーとのDVDなどの販売委託契約を解消しました。資本主義の社会では最後に資本多数決で議決権が多い方が勝つことが基本原理になっています。
確かに、株式の買取・併合・募集事項等3分の2以上の特別決議を必要とする決議事項もありますが、会社支配は、議決権の過半数を獲得することといった側面もあるのです。企業原理では資本多数決主義が貫徹する。

家長支配
一方、家族原理においては、多数決ではなく家長が最終的に単独で決裁します。家業経営において、資本多数決原理ではなく、基本的に家長が運営を主催するといってよいでしょう。
ファミリー企業では、家長が株式の持ち分が過半数を獲得していなくても、事実上会社を支配することが往々にしてあるのです。ときおり、オーナーの子息・孫、ときには傍系の子孫が、企業の長として立ち会社を運営する事例が見られますが、過半数の株式どころか、1~2%程度の持分しか持っていないケースがしばしば見受けられるのです。
このとき、一族合計して1%しか持たないオーナーの子孫と経営的に同等の才覚を持つ非血縁他の取締役と、代表取締役の地位を争った場合、オーナーの子孫が選ばれるのが通常だと考えられているのです。

資本多数決と家長支配との相克
しかし、その非血縁の取締役が、オーナーの子孫と比べて、実力・経験・見識ともに優れている場合、他の取締役はいかに振る舞うか。ファミリー企業の場合、当該取締役は参謀ないし番頭として手腕を振い、オーナーの子孫が代表権を持つべきと考えるのも人情だといえるでしょう。ビジネスの競争原理・資本多数決原理から考えると、オーナーの子孫というだけで、会社を運営する「支配の正当性」があるのであろうか疑問が持たれます。
ファミリー企業のメリットとして、経営者と株主の利益相反が小さいことがあげられます。しかし、ファミリー企業が承継・相続の段階で持分が分散していくと、持分をもっていないのにオーナーとして振る舞う経営者が現われるかもしれません。このように所有権が小さいにも関わらず経営権を代々承継させることの正当性が問われることになるのではないでしょうか。

後継者を指名するのは社長の役割なのか
東急電鉄の前身である目黒蒲田電鉄は、1922年に創業された。五島慶太氏が代表取締役社長に就任したのが1936年。1951年に公職追放を解除された五島慶太氏は、翌年取締役会長に就任しました。
五島昇氏が取締役社長に就任したのが1954年。五島慶太会長が亡くなったのが1959年。五島昇が亡くなったのか1989年です。
このように、五島家による東急支配は半世紀以上続きました。
新井喜美夫氏は、その著書「五島昇 大恐慌に一番強い経営者」の中で、五島昇氏が後継者として息子の哲氏に東急電鉄を譲りたかったが、副社長の田中氏が拒否して東急電鉄の役員になることができず、東急建設の役員になった件を次のように描いています。

  「東急は五島さんの個人的な会社ではなくなったとはいえ、後継者を指名するのは、どこでも代々の社長の役割だ。株 主総会で決定するという手続きはあるにしても、派閥争いや内紛、あるいはトップに決定的な失点がない場合、次の社長は、現社長が決める。株主総会の承認は、形式に過ぎない。・・・後継者争いでは、トップの身内が有利なことは変わらない。同じ能力なら引き上げられるからだ。」

 これは、五島昇氏ほどの大物経営者でも、持分が希薄化した際には、後継者を決定するにはよほどの覚悟が必要であることを物語っています。それと同時に、東急ほど大きくなった企業においても五島昇氏が息子に社長を譲りたかったという、家族への思いの胸の内が描かれています。
 当時の役員会の雰囲気を推し量ることはできませんが、五島昇氏が覚悟を決めて、「次は息子に会社を譲る。」と常から公言し、腹心を説得して副社長の周囲を腹心で固めていれば、田中副社長も抵抗できなかったのではないかと思うのです。
 株式所有関係から見ると非同族企業である東急のような大企業であっても、家族の原理と競争の原理の相克が生じるのです。ましてファミリー企業において、家族の原理と競争の原理の相克が必ず起こると言っていいでしょう。
 後述するように、ファミリー経営を継続させたいならば、株式の分散・希薄化は可及的に避けるべきです。しかし、企業が成長し強大化すると分散は回避できないかもしれません。ファミリー企業の持続のためには、敢えて成長させない、間口を広げないという選択もあるのです。
このようなときに備えて、ファミリーによる支配の正統性を維持しておかないと、家族の原理と競争の原理の相克は顕在化して、大きな亀裂を生じるかもしれないのです。

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