コンサルタント弁護士・籔本恭明(やぶもとやすあき)
経営の視点
経営の視点
事業承継(その32)家業経営体と戸主の役割
事業承継(その32)家業経営体と戸主の役割
作成:2016年5月15日(日)
事業承継(その32) 家業経営体と戸主の役割

家業経営体は乗り物
 時代時代によって、婚姻戦略の形態は特徴を持っています。まさしく「婚姻」によって「いえ」が安定的に継続するように、時代に応じた家業事業体の再編・形成・成長を図ろうとするのです。そして、戦略的にリプロダクションを行うことによって、時代に適応して生存を図ることができるのです。ここでいう家業経営体とは、単なる家業のみならず、家格、家産、家名を承継させる「乗り物」のようなものと考えればよいでしょう。
 
  「承継にかかわる戦略を縦の戦略とよぶとするならば、連帯にかかわる横の戦略は、さまざまなポジションの人間をどのように統合するかが問題となる。一族による持ち株会社化はその一つの典型例である。経営組織は拡大し多角化しても、同族が株を保有することにより、会社を「家」として統合しようとする理念である。このように同族を固定することで、「家」を維持しようとする戦略もあれば、他方で有能な婿養子を新たに組み込むことで、同族団を強化しよとする戦略もある。後者は、新興の経営体に多くみられる。親族・姻族を経営体に配することにより「家」を経営体の統合理念としようとする狙いであるが、メンバーの実質的な経営の関わりは経営体の規模や機構によっても異なっていた」(米村千代「資本家の婚姻と家の存続戦略」)

 ここでは、株式の所有は、配当を求めるものでも、まして株価の値上がりを期待するものでもありません。株式を所有するのは、家を統合するための手段に過ぎないのです。まさしく、家業は、「家」を承継させる乗り物なのです
 社会の基礎単位として家族の重要性を鑑みて、明治政府は旧民法と戸籍法を整備して、戸主が家に対して強大なリーダーシップを発揮できるようにしました。このことは、時に戸主の横暴を招くこともありました。しかし、戸主は農業をはじめ生産の指導的役割を果たすことにもなりました。そしてこのような指導的役割によって戸主が構成員の婚姻に対しても指導的な権限を振る舞うことを許すことになりました。戸主は、家業維持のために、構成員の婚姻をコントロールすることも当然のこととされました。

  「明治期以降の新しい傾向は、横山が指摘するように、富豪たちが階層や身分の上昇機会をえたことによって起こる。この時期の婚姻戦略の目的は、時代に即した形での家業経営体の再編・形成に必要な人材を送り込むことであり、経営能力を有する人材や、新しい文化的象徴財をもつ人材が求められていた。」(米村千代「資本家の婚姻と家の存続戦略」)

 ここで、「家業経営体の再編・形成に必要な人材を送り込」んだのは戸主であり、戸主が「経営能力を有する人材や、新しい文化的象徴財をもつ人材」を求めていたのす。
 戸主が家業経営体の経営者のリクルーティングに関する権能を有していたと言ってよいでしょう。

  このエントリーをはてなブックマークに追加
経営の視点に関する詳細や関連記事はこちらに御座います。併せて御覧ください。