コンサルタント弁護士・籔本恭明(やぶもとやすあき)
経営の視点
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事業承継(その27)「家」と経営
事業承継(その27)「家」と経営
作成:2016年5月9日(月)
事業承継(その27)「家」と経営
 ファミリー企業では、所有と経営以外に家族という要素が入ってきます。したがって、ファミリー企業の経営を考える前提として、「家族(ファミリー)」とは何かを考える必要があります。

社会を構成する最小単位である家族
いかなる時代においても、いかなる社会においても、家族あるいは家という集団が社会を構成する重要な最小基本単位です。
社会学では、社会の構成要素として、個人、家族、地域社会、自治体、国家があります。しかし、家族を除いた他の要素、つまり、個人、地域社会、国家等の社会の構成要素はリプロダクション(再生産。露骨に言えば「生殖活動」)の機能を持ちません。
よく「持続可能な社会」という言葉を聞きますが、持続可能にするものはリプロダクションです。
確かに、社会の構成員は生身の人間としての個人です。しかし、個人としての人間には必ず寿命があります。社会が持続可能であるためには、リプロダクション、即ち、生殖活動が不可欠なのです。そして、リプロダクションを行い、子孫を残す機能を持つのは家族だけです。残念ながら人間は単為生殖動物ではないので、個人としての人間だけでは社会の持続可能性を担保できません。
社会の持続可能性を論じているときに、コミュニティーが大切な要素であると述べる識者がいますが、コミュニティーが生殖活動を行って妊娠することはできません。。
家族なきコミュニティーでは、持続可能性が保障されません。

生活を共同にする集団
中根千枝氏によると、日本語の「いえ」は本来「かまど」を意味する「he」に前頭語「i」がついたものであるといいます(中根千枝「家族の構造 社会人類学的分析」1970年 東京大学出版会)。
「かまど」とは、生活の本ですから、「いえ」も、生活の本となる集団、即ち、衣食住等生活を共同にする集団ということになるでしょう。
英語のfamialyの語源はラテン語のfamiliaと言われています。この言葉は元来ひとつ屋根の下に暮らす奴隷や召使を指していたようですが、のちに彼らの主人も含まれるようになり、最終的に、親族を含めた集団を示すようになりました(木下太志「近世農村における世帯と婚姻」)。
この意味で、familyも、ひとつ屋根の下に暮らし衣食住等生活を共同にする集団ということになります。

育成機能と情緒安定機能
社会システム論の泰斗であるタルコット・パーソンズは、家族以外においては十分に遂行されえない機能として、育児(社会化)と大人の情緒安定機能をあげています。
これから類推できることは、「いえ」をベースにおいた同族経営は、優れた経営者を選抜するだけではなく、優れた経営者に育てていくものだといえるでしょう。
「いえ」をベースにした同族経営は、過度な競争によるギスギスした人間関係を形成するのではなく、信頼と責任によって共生の人間関係を形成し、経営を人材しようとするとするものだと言えるでしょう。
そもそも、人間には単独孤存はありえません。家族という絆によって、社会化し、大人になっても情緒が安定するのです。
たしかに、タイトすぎる絆は時に個人に対し重く圧し掛かってくることもあります。時に家族関係の絆の重さからから家出する子もあります。しかし、このように「重い絆から一時的に逃げ出した」少年・少女も、いずれ、絆で結びついた人間関係の中に戻っていくものです。

家族の中の母性原理と父性原理
家族関係を支配する原理には、「包み込む」母性原理と「切り離す」父性原理の両面があります。しかし、この「切り離す」父性原理は、競争の結果、子供を敗者として切り離すものではありません。
子供が将来社会に出てやっていけるように、自立性を促すため、いわば育てるために「切り離す」のです。要は、家族は次世代人材である子供を育て、別の家族で育った配偶者と結婚によって姻族関係を形成するとともに、そこでリプロダクションを実行し、「いえ」を存続させていくものです。

家業、家格、家産、家名
「いえ」は、家業、家格、家産、家名といった要素から成りたっています。
「いえ」は単にDNAを残すだけではなく、「いえ」が営んできた家業も、「いえ」の暖簾ともいえる家格も、「いえ」が所有する(ときに個人が所有するのではなく、家団としての「いえ」が合有する)家産も、他の「いえ」と識別する家名も、永続させる仕組みが「いえ」と言っていいでしょう。
 米村千代氏は、婚姻戦略によって、「いえ」を持続的に承継されてきた実態を解明しています。
 「いえ」を持続させるためには、継続してリプロダクションを機能させることが必要です。
 継続して安定したリプロダクションのためには、「婚姻」を「いえ」存続のために機能させなければなりません。
 このリプロダクションを補うものとして、次回説明する「養子制度」があります。

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