コンサルタント弁護士・籔本恭明(やぶもとやすあき)
経営の視点
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事業承継(その9)低いエージェンシーコスト
事業承継(その9)低いエージェンシーコスト
作成:2016年4月11日(月)
 ファミリー企業では、所有と経営が分離していないために、前に述べた以外にも長所もあります。エージェンシーコストが低いのです。
 エージェンシーコストとは、株主と経営者との利益相反により発生するコストのことです。
 時として、経営者は株主の意向に沿わない意思決定をすることもあります。
 この場合に生じるコスト、および、経営者と株主の意向の齟齬を防止するためのコストがエージェンシーコストです。
 経営者は、株主に比べて圧倒的に企業に関する情報を持っています。これを情報の非対称性と言います。
 経営者は、情報の非対称性を利用すれば、株主の利益に反して自己の利益を図ることも可能になります。経営者が、情報の非対称を利用して自己の利益を図ろうとすることを防止するためのコストをエージェンシーコストと言っていいでしょう。
 もちろん、すべてのファミリー企業においてエージェンシーコストが低いという保証はありません。
 しかし、ファミリーが大多数の株式を保有している場合には、利益相反がほとんどなくなり、従って、エージェンシーコストは低くなります。
 このように、ファミリー企業では、所有と経営が分離していない、もしくは分離の程度が小さいので、株主と経営者との利益相反は小さくて済むわけです。
 したがって、利益相反を監視・監督するコストが安上がりになるのです。
 また、ファミリー企業の特長として、血統がヒエラルキーを決定するので、地位や出世競争などによるエネルギーの浪費が起こりにくいことも挙げられます。
 セブンイレブンの生みの親であった鈴木敏文氏が、井阪隆一社長をおろそうとして、結果、社外取締役らの反対にあって、辞任に至りましたが、この背景には、鈴木氏の息子である康弘最高情報責任者に経営者を世襲させることに疑念を抱かせたことがあります。
 漫画の「島耕作シリーズ」のように、多くの会社には派閥があります。そして、その派閥間のポジション争いで余計なエネルギーが浪費されることもあるのです。
 ファミリー企業でオーナー経営者が、念入りに時間をかけて承継準備をやれば、このようなエネルギーの浪費は最小限で済ませることも可能になります。
 ファミリー企業であることで、経営の意志決定においてもよいことがあります。経営者にとって、時には大きなリスクを取って積極的に大きな投資に打って出ないといけない場合もあります。時には、配当を抑えて将来の成長のための投資に回わさなければならない場合もあります。
 このような場合でも、所有と経営が分離していないか、または、分離の程度が低いと、大きなリスクを取って積極投資をすることも、配当を抑制することもやりやすいのです。
 但し、注意しなければならないのは、オーナー経営者の暴走を食い止めるために、後述するコンプライアンスを確保するための支出を惜しんではならないということです。
 ファミリー企業では、経営に対するコミットメントが厚いことから、コンプライアンスが希薄になりやすい事例も垣間見られます。
 所有と経営が分離していないファミリー企業においては、コミットメントが厚く、経営責任も明確であり、長期的視野にたって経営し、意思決定が迅速であるといったことは、経営に善い影響を与える一方で、コンプライアンス違反によって企業の突然死を迎える危険も孕んでいるのです。

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