コンサルタント弁護士・籔本恭明(やぶもとやすあき)
経営の視点
経営の視点
ボッシュの経営
ボッシュの経営
作成:2011年1月26日(水)
非上場企業であるボッシュは、1886 年にロバート・ボッシュ (1861~1942)が創業しました。(ドイツ語の発音では、「ローベルト・ボッシュ」)
ボッシュには、自動車機器、産業機器、消費財・建築関連の3つのセクターがあります。2009年度の連結売上高は約4兆2000億円、従業員数は27万人以上の大企業です。
ボッシュの株主構造は独特のものです。
ロバート・ボッシュGmbHの株式の大半は非営利組織である公益法人「ロバート・ボッシュ財団」(持株比率92%)が保有して年間約7000万ユーロの配当を受けていますが議決権はありません。
議決権の大半は、ボッシュ役員や役員OB、独財界人で構成される共同経営者会「ロバート・ボッシュ工業信託合資会社」(議決権 93%)が保有して、経営を監視しています。
残りの株式と議決権は創業家であるボッシュ家(持株比率 7%、議決権 7%)とロバート・ボッシュGmbH(持株比率1%、議決権なし)が保有しています。
「株主(利益配当)」と「経営(議決権)」が完全に分離しているのです。
創業者のボッシュは、人員整理のため突然解雇された経験から、労働環境の改善を経営の優先課題と考えて、長期雇用を重視してきたと言われています。
リーマンショック業績が悪化したときにも、労働時間短縮によって、ドイツ国内の約10万人の雇用を守ったと言います。
フランス総合保険グループ会長をされていたミシェル・アルベール氏は、「資本主義対資本主義」という著作の中で、短期利益、株主、個人の成功が優先されるアングロサクソン型キャピタリズムと、長期的な目標への配慮と資本と労働を結びつける社会共同体として企業が優先されるライン型キャピタリズムとの二つの資本主義の対立があるとして、ライン型は、ドイツを中心に置くが、日本のものとの類似点が多いと述べています。
ボッシュの資本構造を見ると、株主の短期的利益など顧みず経営できる仕組みになっています。
まさしく、ライン型資本主義のお手本のような株主構造になっています。
一方のアングロサクソン型資本主義では、企業の目的は、株式時価総額最大化ということになります。
時価総額が高ければよいという考えは、最も高くなった時点で株式を売却して、儲けを出すことを目的にしているからです。
株主のお金儲けの為の存在が、企業という考え方です。
企業の存在意義については、企業倫理の問題でありますので、経営者の内心の自由の問題ですから、正解はないのかもしれません。
しかし、仮に、経営学とは、いい経営をするための学問と定義したとき、「いい経営とは何だと考えているか?」と問われたら、企業は社会に貢献するために存在していると答えます。
第一は、社会・顧客に価値を提供するために、第二は、働く人に生き甲斐を提供するために、第三は、資本を提供してくれた株主に感謝の印として配当を差し上げるために存在しているとお答します。
企業の存在意義について、経営者の内心の問題だと申し上げたのは、これらを制度的に強制するものではなく、経営者の倫理の問題として考えるべきものだと思います。
制度的に強制する結果、経営者が株主代表訴訟を恐れて、経営の自由度が阻害されないように注意するべきでしょう。
加護野忠男先生が「経営の精神」の中で
「終身雇用は、従業員と会社との間の公式的な契約によって成り立っているのではない。暗黙に了解された慣行であったから、終身雇用は維持されてきたのである。労働法の規制が強められてしまったために逆に、終身雇用が存続できなくなってしまった。」
と、法的なルールを持ちこんでしまうと、せっかくの慣行が崩れてしまう可能性を指摘しておられます。
日本企業が生き残るためには、日本の経営の独自性を磨きあげる必要があると思います。
これは決してノスタルジックな気持ちからではありません。
もちろん優れたものから積極的に学ぶ謙虚な気持ちは大切ですが、単にアングロサクソン型経営を真似しているだけでしたら、経営力の独自性、競争優位の源泉が失われるのではないでしょうか。
ボッシュをはじめとするヨーロッパの経営を、もっと謙虚に学ぶ必要があると思います。

  このエントリーをはてなブックマークに追加
経営の視点に関する詳細や関連記事はこちらに御座います。併せて御覧ください。